川村 猛

川村 猛(かわむら たけし)
東京大学 アイソトープ総合センター 准教授

大学院工学系研究科 先端学際工学専攻兼担
放射線業務従事者

専門分野
生体への放射線影響、アイソトープを用いたタンパク質定量

研究内容

質量分析計とアイソトープを用いた放射線影響、タンパク質定量の研究

我々のグループでは、質量分析を用いた生体試料の解析を行っています。高分解能質量分析計を用いることで、アイソトープを識別出来る分解能で質量を決定することが可能です。身の回りの物質には多くのアイソトープが含まれており、アイソトープ比を観察することで有機物中の元素組成を推定することも出来ます。我々はそのような質量分析計を用いてタンパク質の研究を行っています。

図1. 質量分析計による天然のタンパク質中に含まれるアイソトープの検出
ペプチドVGEVIVTK(C38H69N9O12)の質量スペクトル

放射線の生体に与える影響

放射線照射した細胞中のタンパク質全体の解析であるプロテオーム解析をしています。遺伝子変異によらない、遺伝子発現制御に関わるエピゲノム修飾変化を解析する事により、放射線の影響を調べています。センター内のDNA, RNAの解析グループと共同で、得られたデータを使ったオミックス解析を目指しています。また放射線治療の1つである重粒子線がん治療では免疫系が活性化される現象が知られています。我々は放射線照射で免疫細胞を活性化させる因子の探索を行い効果的な免疫活性化を目指しています。

図2. 放射線照射によるiPS細胞のプロテオーム変化

放射線を用いたがん治療、診断法の開発

当センターでは福島県立医科大学、理化学研究所などと共に、がん細胞を認識する分子を利用して治療・診断用の放射性物質をがん細胞のみに送達する技術(ドラッグデリバリーシステム;DDS)を開発しています。我々のグループでは、このがん細胞を認識する分子の解析・評価を、質量分析を用いておこなっています。

図3. 放射免疫療法に用いる分子の解析

アイソトープを用いたタンパク質の絶対定量

天然にわずかしか存在しない安定同位体に置換したアミノ酸を用いてペプチドを合成することで化学的性質は同じで、質量だけが異なるペプチドを作成することが可能です。これを内部標準物質として生体由来の試料に混合し、高感度質量分析計を用いることでタンパク質の絶対定量が可能です。放射線によって変異または発現量が変化するタンパク質を発見した際に、その検証を行えるよう、アイソトープラベルした標準品を用いて高感度にタンパク質を定量するシステムの構築を行っています。