Message from the Director
2021年4月からアイソトープ総合センターのセンター長を仰せつかることになりました。かつて大学院生および博士研究員の頃(1996~1997年)に本センターの住人であったこともあるのですが、その後、本センターの研究と教育の活動は大きく発展してきており、微力ではありますがその発展をさらに後押しできるように尽くしたいと思います。至らぬ点も多いかと存じますが、皆様と協力しながら、本センターが学内外の関連分野の発展に貢献できるよう努力して参りたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。
1896年にベクレルが放射能を発見してから125年が経過しました。放射能・放射性同位体・放射線に関する科学は、次代を拓く原子炉の開発など先端科学として華やかな扱いを受けてきた時代もありましたが、現在では放射性核種による環境汚染や生体影響などの側面が強調される場合も多く、人間の科学史からみれば非常に短期間の間に様々な毀誉褒貶を受けてきました。しかし、それまで安定だと思われていた原子核が違うものに変わり、その際に放射線を放出するという現象は、科学的に非常に興味深い現象であることに変わりはありません。そもそも放射能・放射線は、広く自然界や生体にも存在する身近なものでもあり、その発見とそれにより生まれた基礎から応用までの広範な科学は、それまでの科学を一変させるほどに重要な意義を持つものです。近年でも、ニホニウムの発見などの超重元素の科学、短寿命核種を用いた医薬品開発、福島第一原発事故関連の環境研究など、新しい研究の芽が続々とこの分野で生まれています。また、原子力エネルギーの利用は世界的にも継続されており、仮にその利用を完全に停止したとしても放射性廃棄物処分の問題は残ります。このように、人類の夢を追求しつつ、一方で地球環境に対する人類の責任を果たす上で、この分野の継続とさらなる発展は、人類にとって欠くべからざることです。このような背景からも、本センターは、東京大学を代表する放射性同位元素関係の研究・教育の中核施設として、重要な責務を背負っています。
このような状況の中で当センターでは、従来から先端的で多様な研究活動、研究支援活動、教育活動、社会貢献活動(詳細は本ホームページをご参照下さい)を強力に進めてきており、今後ともこうした活動の発展を通じて、上記のような責務を果たしていくべきと考えております。特に次世代を担う人材をこの分野に引き付け各界に輩出していくことは、様々な困難が予想されるものの今後最も注力していくべき点であると考えております。またこうしたことへの貢献は、学内に留まらず、放射線取扱施設が廃止された外部の研究教育機関の関連分野研究者の受入ニーズの高まりなどから、学外からも期待されるに至っています。我々は、上記のような目標を達成しもって学内外からの期待に応えるべく、教職員一同努力をしていく所存です。どうか皆様の本センターへのご理解、ご支援、ご協力を賜りますようお願い申し上げます。
東京大学アイソトープ総合センター長
高橋 嘉夫