核種ライブラリを自動作成するオープンソースソフトウェアを開発
当センターの張宰雄(ジャン・ジェウン)助教が、アルファ線・ガンマ線スペクトロメトリ用核種ライブラリを自動作成するオープンソースソフトウェアを開発しました。
アルファ線・ガンマ線スペクトロメトリは、物理学(天体物理学、素粒子物理学、核物理学等)から化学(核化学、地球化学等)、医学・薬学(核医学、核薬学等)、核セキュリティまで、幅広く利用される分析技術です。ある物質に未知の放射性核種(放射性同位元素、ラジオアイソトープ)が入っている時、その放射性核種が放出する特定の放射線エネルギーを検出することで、どの種類の放射性核種がどの程度の量で入っているかを調べることができます(図 1)。この作業を「放射性核種の同定」といい、一連の核種データが入ったデータセット「核種ライブラリ」を利用して行われます。
現在、約3500種類の核種からなる約2万件の核データセットが存在しています(注1)。膨大なデータ量のゆえ、重複する放射線エネルギーも多く、核種ライブラリに使用する核データを選別しなければなりません。つまり、放射性核種を同定したいサンプルごとに、専用の核種ライブラリを作成する必要があります。望ましい作成方法は、放射線解析に熟練している作業者が核種データを選り分け、必要最低限の核データでライブラリを構成することです。しかしながら、放射線解析の熟練者は数少なく、核種同定作業に充てられる時間も限られているため、解析作業に慣れていない一般作業者(実験者)が核種ライブラリを作成することが多いのが現状です。核種データは複雑な構造を有しており、放射性核種が作り出す子孫核種の核データも全て考慮する必要があるため、正確な核種ライブラリを作成することは簡単な作業ではありません。そのため、一般作業者による核種ライブラリ作成はデータ欠損や打ち間違いの可能性が高くなります。もし、コンピュータによる核種ライブラリの自動作成ができれば、誰でも正確な核種ライブラリを入手でき、実験の高効率化・高精度化が期待されます。
そこで本研究では、核種ライブラリを自動で作成できる計算アルゴリズムを開発し(図 2)、プログラミング言語「Python」を用いて、ソフトウェアとして実現しました(図 3)。開発したソフトウェアのV&V(注2)のために、最も複雑な核データを有する壊変系列4つ(トリウム系列、ネプツニウム系列、ウラン系列、アクチニウム系列)を対象にライブラリ作成性能をテストしました。また、実際のアルファ線・ガンマ線スペクトル12本に対して核種同定を試み、自動作成された核種ライブラリの有効性を調べました。本テストの結果、それぞれの壊変系列ライブラリは最短71秒から最長134秒で作成でき(図 4)、12本のスペクトルすべてに対して、核種同定に成功しました(結果の一部を図 5、図 6に示します)。
本研究成果は、アメリカ物理学会(American Physical Society)が発行するジャーナル「Physical Review Research」の2024年11月号に掲載されました(「出版情報」参照)。オープンアクセスとなっており、どなたでも無料で閲覧・ダウンロードできます。なお、開発したソフトウェアのソースコードは、GitHub及びZenodoそれぞれにて公開しております(「ソフトウェアコードベース」参照)。
(注1)https://www.nndc.bnl.gov/ensdf/about.jsp
(注2)Verification and validation
謝辞
本研究は、東京大学若手研究者の国際展開事業(2023年度事業)、科研費「電子リニアックを用いた標的アイソトープ治療用核種の製造とその薬剤の薬効評価(課題番号:22K20880)」、「天然モリブデンの光核反応を用いた高放射性核種純度のテクネチウム99mの製造(課題番号:23K17147)」の助成を受けたものです。
出版情報
- ジャーナル:Physical Review Research(出版社:アメリカ物理学会)
- タイトル:Computational generation of tailored radionuclide libraries for alpha-particle and gamma-ray spectrometry
- 著者:Jaewoong Jang
- 掲載日:2024年11月25日
- URL:https://doi.org/10.1103/PhysRevResearch.6.043208
ソフトウェアコードベース
問い合わせ先
東京大学アイソトープ総合センター
助教 張 宰雄(ジャン・ジェウン)
E-mail:jang[at]ric.u-tokyo.ac.jp
※上記の[at]は@に置き換えてください。